地域連携PBL「由井プロジェクト」
東京工科大学で受け持っている「サービスラーニング」という授業。この授業では、事前事後授業と学外での課外活動を通して、コンピテンシー能力の醸成や、地域社会の歴史や経済、商業、文化、行政の仕組みなど社会がどのように成り立っているかの知識を深めていきます。
数多くの教員が携わっており、地域や実習形式の種類によって担当が決まっています。その中で私は、他とは少し趣が異なる「プロジェクト型」のプログラムを構築し担当してきました。プロジェクト型のプログラムとは、数ヶ月の期間を通し、協働団体の抱える課題や行う事業をその団体と一緒になって進め、成果物となるアウトプットを作り上げるモノです。
2018年度から担当し、2019年度は由井、片倉、成人式の3つのプロジェクトを同時並行で実施。いずれも大学がある八王子市内が演習場所となっています。ここでは、その1つ「由井プロジェクト」についてまとめていきたいと思います。
由井プロジェクトは、工科大のキャンパスからすぐ近くにある由井市民センターを主な活動場所として行いました。この施設は八王子市が運営する公共施設です。主な利用者は近隣に住む高齢者の方々と子どもたち。その中でも特に今回は子どもたちが対象となりました。
このプロジェクトは、この施設に出張拠点を持つ、八王子市社会福祉協議会の職員さんからいただいた相談がきっかけ。
『近くに小学校がいくつかあるものの放課後、子どもたちが遊ぶ場所は学校か学童、もしくは各々の自宅になりがち。このセンターが地域内の子どもの居場所になりたい』という想いをお持ちでした。
その想いを起点に何度かの打ち合わせを経て「子どもたちに身近な場所になること」を目的にいくつかの企画をやってみようということで立ち上がりました。また、大学としても地域との連携を強く押し出していることもあり、学生と子どもたちの距離が縮まることによって、結果地域と大学の距離も近くなるのではないかという思いもあります。
工科大は理系大学のため、そこで学んでいることをテーマとする実験教室・工作教室の実施、また地域団体の皆さんが主導する夏のイベントへの出展をゴールに設定。学生たちは社協さんと一緒に企画内容を考え、実現させるまでがプロジェクトのフローになります。
▼
サービスラーニングは必修科目ではないため、受講に際しては全学部へ向けた説明会を行います。そこで全てのプログラムについて説明を聞き、希望するものに参加(受講)する仕組みです。
募集説明会の結果、由井プロジェクトへの参加者は9名が集まり、このメンバーでチームとなり企画作りを行っていくことになりました(後日参加希望者が増えたため総勢10名)。
********
概要
期間:5月下旬〜8月中旬
課題:由井市民センターを子どもたちの居場所にしたい
行動:工科大の学びの特色を生かした子ども向け教室、地域イベントへのプログラム出展
参加者:10名
内訳:応用生物学部:1名
コンピュータサイエンス学部:5名
メディア学部:2名
工学部:2名
協働先:八王子市社会福祉協議会 地域福祉推進拠点 由井
*プロジェクトの日々の活動記録は学生たちがこちらのブログに記事を書いてくれています。
********
▼
他のサービスラーニングプログラムは、指定された日時に各現場に行き活動を行うものが主流ですが、プロジェクト型の本プログラムは、メンバーで定期的に集まり企画を練り上げていきます。各回の詳細は省きますが、こちらのブログにメンバーが交代制で各回の内容をまとめてくれてありますので是非ご覧ください。
プロジェクトの大まかな流れは以下の通り。
- チームビルディング、スケジュール・ゴールイメージの共有
- 社協さんからのレクチャー(センターの現状や理想としていることなど)
- 学内メンバーで企画立案
- 社協さんに向けてプレゼン、フィードバック(1stプレゼン)
- 学内メンバーで企画内容見直し
- 社協さんに向けてプレゼン、フィードバック(2ndプレゼン)
- 企画ごとにチームになり準備
- 現地下見
- リハーサル
- 本番
- リフレクション
(企画立案や準備は複数日数をかけて実施)
このプログラムを構築する際に心がけたのは、可能な限り本来の「仕事」の流れに沿った流れを体験すること。学内で行われるプロジェクト形式のものは机上の空論となることが多々あります。それは考えたことを現実に実現することはなく、「こうしたらいいのではないか」をプレゼンして終わるというパターンが多いためと考えます。
地域を舞台に実際に具現化するというゴールがせっかく用意できているので、本当に実現するところまで行うことで、頭で考えたことを現実に実現することの難しさを体験してもらいたいと思ったためです。また、仕事は他者の期待に応えることが求められます。そのため、最初のレクチャーでニーズを明確に知り、それに対して自分たちが考えた案を提案し、フィードバックをもらうという形式を採用しました。
しかし、取り組む課題のハードルが高すぎるとモチベーションが下がってしまうことと、成長を後押しするため、ヴィゴツキーの最近接発達領域(ZPD)の観点から、事前の社協さんとの打ち合わせで簡単すぎず、協力しないと達成できない難易度に設定してあります。
チームビルディングとしての「マシュマロタワー」。
社協さんのレクチャーを通して「現状の共有」と「ゴールイメージの明確化」。
ワークショップ形式でアイディア発散。
社協さんへのプレゼンの前にチーム内で模擬プレゼンを行いブラッシュアップ。
社協さんに向けてプレゼン。
フィードバックをもとに修正して、後日再プレゼン後に実施プログラムが決定。
▼
プレゼンの結果、3つの企画案が採用されました。以降、決定したプログラムごとに少人数チームを組み、そのチームごとに準備を進めます。リハーサルや現地下見は全体で行いますが、ひとまず全員集合しての企画会議はここまで。
選ばれなかった企画案を提案したメンバーは残念でしたが、選ばれたメンバーの案をより良いものにしていくため、ここからは気持ちを切り替えて関わります。この移行もスムーズになるように、個々人で案を練っていた頃から、お互いの案にフィードバックをこれでもかというくらいかけることによって、その下地を作ってきました。そのこともあって、メンバー全員うまく切り替えができていたように思います。
企画案が決まってから本番まで約3週間。その間、期末試験やお盆休みなども挟むため、かなりタイトなスケジュール感でしたが、メンバー全員協力して本番に向けて準備、リハーサルをしてくれました。
本番の様子は、彼らの声が一番詳しく語ってくれていますので、詳細はこちらのブログ記事をご覧ください。
▼
このプロジェクト型プログラムそのものが初めての実施ということもあり、試行錯誤しながらの実践となりましたが、企画なんて建てたことがない!という学生たちがゼロからアイディアを出し、具現化の壁と戦いながら、形にしたことが、まず1つの成果ではないでしょうか。
センター側の課題である、子どもたちの居場所を作ることは一朝一夕、たった2度のイベントでは実現するのは難しいですが、新しいコンテンツができたことによって、初めて参加した子どもたちもいたようで、そのきっかけにはなれたのかな?と思います。こういった取り組みを続けていくことで子どもたちが普段からもセンターを訪れるようにしていきたいと思います。
このプログラムに参加した学生たちも、実施後に各々がまとめたリフレクションコメントを読んでみると、心に残った部分は異なりますが、それぞれが深い気づきを得たようです。コメントの抜粋版をこちらのブログ記事に載せてありますのでご覧ください。
▼
そして何より、「自分の想いを外の世界に作り上げる」ことのおもしろさに目覚めてしまったのか、大半のメンバーが後期のプロジェクトにも継続して参加したい!という声を上げてくれたのがとても嬉しく感じています。
後期は、この由井プロジェクトに加えて、片倉プロジェクトもスタートします。
**********
東京工科大学で行っている地域連携PBLプログラムをこちらにアーカイブしています。
0コメント